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沖縄の言語について|1C21 城生剛之介

 来年、沖縄へ研修旅行に行くにあたって、沖縄についての知識を深めたいと思いました。そのためにはいったいどんなことを調べれば良いのか、どんな知識を身につければより深く沖縄のことを知ることができるのかと考え、今回、沖縄の方言について調べることにしました。その土地の言葉を知るということは、同時にその土地の歴史や文化を知ることにもつながりますし、その土地の人々とコミュニケーションをとるためにも重要です。そこで、いくつかの沖縄の方言に関する本を読み、沖縄の言語について簡単ではありますがまとめてみました。
[ウチナーグチとヤマトゥグチ]
 沖縄が一九七二年に本土に復帰してすでに三〇年。敗戦後の米軍政下での「アメリカ世(ユー)」よりも復帰後の「ヤマト世(ユー)」の方が長くなりました。しかし、広大な米軍基地は依然として存在し、二一世紀を迎えても「基地の島」の現実を背負いつつ人々は暮らしています。
 第二次大戦後の米軍統治時代、本土との切り離し政策ともかかわって、「沖縄語」教育の本格的な検討がなされ、一部でウチナーグチ(沖縄口)が称揚されました。しかし、一九四八年以降は本土での教科書が輸入されて使用され、ウチナーグチは教育用語にはなりませんでした。
 沖縄で許されていることば・方言をウチナーグチ(沖縄口)、本土のことばをヤマトゥグチ(大和口)と称してきました。クチ(口)というのは、物を食べる口も意味しますが、ことばという意味もあります。このウチナーグチという表現はおおむね首里、那覇など沖縄本島南部のことばを指しています。本島北部、宮古、八重山などのことばはその中の方言として位置づけられて、琉球文化圏内ではウチナーグチとはあまり言わないようです。
 ウチナーグチは本土のどの方言ともいちじるしくちがいます。それでも注意深く観察すると、標準語とのあいだに対応関係があることに気づきます。たとえば雨はウチナーグチではamiと発音し、米はkumi、骨はfumiといいます。標準語の母音のeがウチナーグチではiになり、oがuに変化します。aiueoの五つの母音のうちeとoがなく、三母音化しているのが、ウチナーグチの大きな特徴です。
 ハヒフヘホは昔パピプペポと発音したことが知られています。花のことを古代の日本人はパナと言いました。それが奈良期にファナに変わり、さらに現代のハナに変化したのだと言います。P音からF音へF音からH音へ、時代と共に発音が変わったわけです。
 興味深いのは、P音やF音のような古い発音が今も沖縄に残っているということです。沖縄本島北部のお年寄りは、花のことを今もパナと言い、兵隊のことをフィータイと言っています。
 歴史の変化を受けなかった地域ほど、古い言葉が残っているといわれます。しかしその沖縄でも方言の変化ははげしく、若い人たちはもう、古い方言を理解できなくなっています。お年寄りが去るのにしたがって古い方言が消滅していくのです。その土地のゆかしい人間関係をあらわす方言がなくなるのはさびしいことです。沖縄の方言は、島のあいだでもかなり異なっており、沖縄人どうしでも通じない場合があります。
[ウチナーヤマトゥグチ]
 琉球方言域において旧来の方言の干渉を受けた共通語をウチナーヤマトゥグチ(新沖縄口)とよんでいます。いわば沖縄独自の方言的なまりをもったことば「地域共通語」として中年層以下に定着しています。
 新沖縄口を基盤にする年層者は、旧来の琉球方言の構造や文化をストレートに継承しているとは言えず、そこには言語的にも文化的にも大きな断絶を認めざるを得ません。
 とは言いながら、新沖縄口は、語彙や文法的な言いまわしは東京語に近いが、アクセントやイントネーションは、旧来の琉球方言の特徴を受けついでいます。
 本永守靖氏(一九七九)による、新沖縄口に見られる誤用例を引用します。
(1)方言直訳の特殊な語形。
  ほがす(穴をあける)、とのぐ(とびこえる)、遊びにふれる(遊びほうける)
(2)方言を直訳した語形が、たまたま共通語の語形と同じで、意味や用法のちがうもの。
  ものあたらしくする(惜しい、たいせつな)、やすい問題(やさしい)、靴をふむ=靴をくむ(はく)、そいつをころせ(なぐれ)
(3)方言の慣用句的な言い方を直訳したもので、語形は共通語と同じであるが、共通語の慣用的表現とくいちがうもの。
  かさをかぶる(さす)、たばこをふく(すう)、めがねをはく(かける)、頭をさる(髪を刈る)
(4)動作の主体と対象に混同を生じたもの。
  あした君の家に遊びに来るよ(行くよ)、この本をきみにくれる(やる)、これわたしにあげるの(くれる)
(5)方言の干渉を受けたというより、共通語の類似形と混同し、あるいは他地域の方言をとり入れたもの。
  あきれる(飽きる)、あの人はこえている(ふとっている)

 新沖縄口のアクセントの特徴については、高江州頼子氏(一九九二)による調査の報告を引用します。これは、那覇市とその周辺とを対象としておこなった調査の報告で、語アクセントについても、老年層・中年層、青年層、若年層の三世代分化が見られることが指摘されています。三世代が次のような異なる過程にあるといいます。
(1)方言のアクセントの型の区別の保持
(2)アクセントの型の崩壊
(3)標準語の型の区別のあらたな習得
 老年層・中年層は、「すでに方言を習得した世代」であり、「旧来の方言の語やアクセントの区別を標準語にはめこむ」世代であるといいます。青年層は、「自分のアクセントが自分でもよくわからない世代」で、「方言をすでに自分の言語としてはもっていない層」です。若年層(中学生、小学生)になると、「伝統的な方言の型の区別は崩壊して、標準語の型が全面的でないにしろ体系的に習得されている」といいます。
 新沖縄口は、方言的な色彩は認められるものの、あくまで標準語を基盤としたものです。旧来の方言から新沖縄口への言語変容は、語彙や文法にいたるまで言語構造の大部分をとり変えることです。移入された共通語に伝統的な方言が影響を及ぼすという形での中間方言の形成がなされたのです。その結果、新沖縄口は、いわゆる東京語のなまり程度の特徴を持つ方言にしか過ぎなくなっています。

 言語は、現実の生活の中で生きて使われている以上、常に生成発展をくり返します。しかし琉球方言のばあい、内的変化要因ではなく、外的変化要因によって、その姿を大きく変化させられようとしています。今後ますます共通語化がすすむと考えられますが、それは、新沖縄口としての独自の発展をとげていくことでもあるでしょう。

 沖縄の言語とひとくちに言っても、その種類はさまざまで、島ごとに違い、さらには年代ごとにも違って、それらはまた日々変化し続けています。さらに、ここに挙げた例はそのほんの一部であり、沖縄の方言はあまりにも我々が使っている言語とは違いが多い。しかし、一部には標準語と似ているものも存在し、琉球語と日本語というように区別されていたものが、同じ日本語の一方言として位置づけられるようになったのはうなずけます。
 今回の研究レポートだけではまだ沖縄の言語の知識を少し身につけたに過ぎないので、来年までにはもう少し方言などについて調べ、沖縄のお年寄りの方とウチナーグチで少しぐらい話しができる程度にはしておきたいです。
 参考文献
比嘉政夫『沖縄からアジアが見える』(岩波書店)
照屋林賢 名嘉睦稔 村上有慶『沖縄のいまガイドブック』(岩波書店)
小林隆 篠崎晃一 大西拓一郎『方言の現在』(明治書院)
新里金福 大城立裕『沖縄の百年』(太平出版社)
真田信治『方言の日本地図 ことばの旅』(雄山閣出版)
真田信治『方言は絶滅するのか 自分の言葉を失った日本人』(雄山閣出版)
西岡敏 仲原穣『沖縄語の入門 たのしいウチナーグチ』(白水社)
長田昌明『沖縄方言 使えるうちなー口』(わらべ書房)

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