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2018年度入学式

2018年度入学式が行われました。
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高等科入学式告辞
学習院中等科・高等科 科長
武市憲幸
 
 新しい季節が始まり、樹々の緑も新鮮に目に映るこの日に、今年度の入学式を行えることを大変うれしく思います。
 
 新入生のみなさん、そして保護者の皆様、本日は、ご入学おめでとうございます。

 学習院は古い歴史を持つ学校です。その始まりは、幕末の京都にまでさかのぼります。島崎藤村の小説『夜明け前』には、京都時代の学習院が登場しています。その後明治維新を経た、明治10年、東京に移った学習院は、神田錦町で官立の学校としてスタートを切りました。夏目漱石の評論として有名な、「私の個人主義」という講演も、大正時代、学習院で行われたものです。そして、戦後、院歌に歌われる「新学習院」が私立の学校として発足するわけですが、明治10年から数えても140年という長い歴史を刻んで来ました。今日ここに入学式を行う新入生のみなさんも、そうした歴史をつないでゆくことになるわけです。君たちの若い力で学習院の新しい歴史を書き加えてゆきましょう。
学習院の教育目標は、「広い視野」、「たくましい創造力」、「豊かな感受性」の三つの言葉で表現されています。私たちが君たち新入生のみなさんに望むのは、高等科在学中の3年間に、存分に自分の個性に磨きをかけて欲しいということです。今日は、この「個性」と学習院の教育目標の関係について述べてみたいと思います。
 
 「個性」とは、言うまでもなく「自分らしさ」でありますが、それは当然「ひとりよがり」とは区別されねばなりません。真の個性とは、自分とは違う価値観を持つもの、あるいは異質なものと時にはぶつかり合い、時には交じり合い、いわばやすりにかけられた結果生まれてくるものなのです。こうした作業の果てに、文字通り「磨きをかけられ」て、ようやく確立されるのが真の「個性」です。ですから先ほどの「広い視野」、つまり「異質なものと出会う場所」は必ず必要になります。単に「好き」/「嫌い」で物事を判断して、自分とは異質なものとの出会いを避けていては、いつまでたっても本当の個性には巡り会えません。若い時期は、自分が従来信じていた価値観を根底から覆される体験も克服し、新たな形で再生できるチャンスを与えられている時期です。そのようにして何度も何度も葛藤を繰り返してこそ、本当の「個性」は確立されるのです。どうか恐れずに新たな自分に向けてチャレンジを繰り返して下さい。中学生の時には、敬して遠ざけていた分野にあえて挑戦してみるのも一つの方法なのかもしれません。これから高等科で始まる新しい教科、クラブ、委員会で、様々な体験をして欲しいと思います。
 
 このように、「個性」とは単に与えられるものではなく、自分で生み出してゆくものなのです。ただし、せっかく生み出した「個性」が、「ひとりよがり」のものになってしまっては、元も子もありません。そのために大切になるのが「感受性」というものです。様々なものやこと、人に触れて「心を動かす」、もっと言えば「心を震わせること」が「感受性」です。この「感受性」は、よりよき「個性」を育んでゆく栄養分になってゆくのだと思います。そして忘れないで欲しいのは、「感受性」は、君たちくらいの年代でその土台が作られてゆくものだということです。どうか様々なものに出会い、「心を震わせる」機会をたくさん持って下さい。「豊かな感受性」とは、「豊かな人間性」でもあるのです。さらに、その機会は、「学校」という場所だけに限られているものではありません。例えば、読書や音楽や映画など積極的にその機会を見つけに行きましょう。
 
 以上のように、「広い視野」により鍛えられ、「豊かな感受性」により育まれた「個性」こそが、「たくましい創造力」を生み出しうるのです。私も長い教員生活の中で、数多くの卒業生を送り出して来ましたが、高等科在学中に磨き上げられた「個性」によって、みずからの道を切り拓いて豊かな人生を歩んでいる君たちの先輩を数多く知っています。そしてそうした人たちの存在こそが、自分の教員生活を支える糧になっていると言っても過言ではないでしょう。君たちが高等科を卒業して、先輩たちのように、自分自身の真の「個性」を活かして豊かな人生を歩んでゆけるようにわれわれは、努力を惜しみません。3年間、共にがんばりましょう。
 
 父母保証人の皆様、本日の入学式には学校法人学習院を代表して、内藤院長、耀専務理事、平野常務理事、江崎常務理事にご列席いただいております。またご来賓として、東園桜友会会長、大野父母会副会長、一條中高桜友会会長にご列席いただいております。私たち学習院高等科の教職員一同、心からご子息のご入学をお祝い申し上げます。
 
 高校生は中学生とは異なり、親から離れ、自立した存在へとその一歩を踏み出してゆく時期に当たります。保護者の方々は、これからご子息との適度な距離を保つことに苦労される場面も多々あるかと思います。「つかず、離れず」の距離を保つのは至難の業であり、試行錯誤を繰り返すしかないのかもしれません。それは、私自身一人の息子を持つ親として日々実感するところであります。草花を育てる時、水をやりすぎても、逆に足らなくても枯れてしまいます。さらに、それぞれの草花に必要な水の量も栄養も千差万別です。このことは、私たちが子供を育てる、一人前の自立した人間にする、ということにも通じるものがあると思います。われわれ教員は、一人一人の個性とじっくり向き合い、保護者の方々と協力して、やがては大きな花や実を結ぶように育ててゆければ、と考えております。
 
 本日のご入学を心よりお慶び申し上げます。

 以上をもちまして、入学式の告辞といたします。