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卒業生からのメッセージ

高等科はすばらしいところだ

冨重実也
〈略 歴〉
1989年高等科卒,1993年学習院大学法学部法学科卒業.
(株)集英社勤務.入社以来,少女漫画誌「りぼん」「マーガレット」の編集を担当.
高等科時代,山岳部に所属.

高等科は素晴らしいところだ.是非,入学をお薦めしたい.

 ただ,高等科に受験して入学するというのは,少し特殊な存在になることを覚悟しておいたほうがいい.新入学で入った学校のはずなのに,転校生気分を味わうことになるからだ.既に三年かけて出来上がっているムラ社会に飛び込むことになるのだから.

 入学すると,まずその環境について考えさせられることになるだろう.そこで逃げず,自分で考えて行動する3年間を始めよう.そこから,未来への素晴らしい第一歩が踏み出せると思う.

今,私は出版社で漫画雑誌の編集をしている. 漫画家と打合せをし,作戦を練り,アイデアを出して,一緒に作品を作るのが,その主な仕事だ.漫画家と一対一で接し,どうすればより多くの読者に楽しんでもらうことができるかを考え,作品を世の中に送り出している.

 幸いにも作品に恵まれ一巻あたり百万部を超えるヒット作を担当してきた.いまや,漫画は世界に誇れる日本の文化だ.海外旅行先で自分の担当した作品の現地語版を目にすることもあり,とてもやりがいを感じる仕事だ.

 今,私にこの仕事ができているのは,高等科での三年間があったからだと信じている.

 作家との打合せにはマニュアルが存在しない.編集者の仕事は,こうするべきだというものにそって行うものではない.どんなやり方でも目的のためな ら何をしてもいい.ただし,自分で責任を取らなければならない.そんな今の仕事には,自由な高等科で過ごしたことは欠かせないと思うからだ.

 私の通っていた中学は,坊主頭が校則だった.教師が生徒の髪に指を入れ,指から髪が出たら,保健室でバリカンで刈られる.一事が万事そんな調子で,校則で何もかもが決められていた.

 そんな私が制服着用以外これといった校則のない高等科に入学した.先生達の放任ぶりに最初は面食らった.でも,それは生徒を一人の人間として,大人として接してくれていたからだと今は思う.

 中学までは,生活も授業も先生が1つの方向を提示し,それをすればいいというものだった.でも高等科は生活だけでなく,授業も自由だった.

 年に1度の長文レポート提出が課題の「日本史」.言語学の要素も盛り込む「古文」.中国語で漢詩を朗読する「漢文」.世相を斬る視点で刺激を与え てくれた「現代社会」.社会科は全体的に,教科書に書かれた内容をまず疑ってかかる講義で,物の見方や考え方の多様性を教えてくれた.

 受験勉強をしなくても大学に進学できるという利点を生かし,試験のための勉強ではない,刺激的な内容の授業が多かった.

 それは,大学で専門分野を研究していても不思議ではないような教養あふれる先生達のタレント性に拠るところが多かったと思う.

 授業以外でも先生達の魅力に触れることができた.所属していた山岳部では,顧問の先生と山小屋に泊まったり歩いたりしながら,時事問題からスポーツのことなど森羅万象について話したことは知的好奇心を大いに刺激された.

 このように生徒を大人として接してくれる環境は他になかなかないと思う.

 ただ,自由な環境は,何もしないのもまた自由.有意義に過ごすかどうかも自分次第.きっと普通の高校に進学するより何倍も色々なことを考えさせられたと思う.

 自分で考えて行動する.15歳から高等科で過ごしたことで,そのトレーニングを存分にできたと思う.今の自分があるのは,高等科の存在なしには語れない.



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