令和5年度 入学式

4月7日に令和5年度の入学式が行われました。

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令和5年度 入学式科長告辞

新入生の皆さん、父母保証人ご家族の皆さま、入学おめでとうございます。今年はソメイヨシノの満開をだいぶ早く迎えましたが、この目白の森では桜の期間がわりあい長く続き、今もいろいろな桜が次々と咲いて新入生を迎えてくれています。2月の試験を突破した諸君25名、中等科からの進学者175名、合わせて200名の新入生が今日ここに、新しい高等科のメンバーとして加わりました。教職員一同ご入学を心よりお慶び申し上げます。

新入生諸君は見るからにきらきらしていますね。迎えるほうのこちらの気持ちもきらきらしています。皆さんの高等科生活が夢にあふれたものとなるように、学校として努力して行きたいと改めて感じています。

 本日は来賓として、学校法人学習院より耀英一院長、平野浩専務理事、香取純一常務理事、島津忠美常務理事、江崎博文常務理事、学習院桜友会より塚原穣副会長、学習院父母会より青山英史副会長、学習院中等科高等科櫻友会より斉藤正彦会長にご臨席を賜っています。ご来臨まことにありがとうございます。

 社会と学校はいま新型コロナの影響から徐々に脱却しようとするさなかにあります。ただ危機は過ぎ去ったわけではありません。本日の入学式では、新入生についてはマスクを自由としながら、感染対策として上級生は教室で参加し、歌についても最小限としています。中等科高等科は、感染症についてこれまでの方針を守りつつ、社会の動きになるべく合わせた対応を進めてまいります。ご理解をよろしくお願いいたします。

 ご存知のように学習院は歴史ある学校で、弘化4年、京都に開かれました。明治10年(1877年)、東京・神田錦町に改めて開設され、以降今日まで社会のリーダーを輩出して来ました。2027年に創立150周年を迎えます。現在は耀院長の下、4年後の150周年を目途に、その先の未来に向けての準備としてさまざまな計画を策定しているところです。

 学習院の中で、高等科は人格の幹を完成させる大切な時期を担っています。皆さんは3年前に中学生になって、大人の仲間入りと言われました。自分の判断できる範囲が広がる一方、社会的な責任が重くなるということについて、すでにいろいろな場面で言われ、またそれぞれに考えて来ていると思います。自由と責任ということについては、高等科の3年間でも大きなテーマになると言って良いでしょう。私からも折に触れ改めて話をしていきたいと考えています。

その自由についてですが、皆さんは「学習院て意外と自由な学校だ」といわれるのを聞いたことがあるでしょうか。学習院を知っている人にとっては特に意外ではないのですが、歴史と伝統を大切にしながら同時に自由な学校でもあるということは、一般にはやや意外であるように受け留められているようです。歴史と伝統、という言葉からイメージされるものとしては、保守的、前例踏襲、過去に拘る判断、そういったものでしょうか。学習院にもそういう面はもちろんあります。ただ形としてだけ過去のものを維持するのでは物事は実質的な意味や効果を失っていきます。これを形骸化といいますね。学校のやることが形骸化してしまっては社会的な責務を果たすことはできません。学校はつねに、その時の生徒とともに未来を生きる術を考える場でなければなりません。そのためには、過去の殻に閉じこもっているのではなく、広い世界をよく見て、敏感に感じ取り、創造的な発想を巡らせる必要があるのです。学習院では昔からそのことを歴史・伝統とともに大切にして、社会で活躍する卒業生を輩出してきました。決して意外ではなく、社会に開かれた学校で有り続けるための必然として、自由を尊重してきている、ということなのです。

先の大戦、78年前に終わった第二次世界大戦・太平洋戦争のことです。大戦が終わるまで学習院は宮内省管轄の官立学校でした。戦争に負けて、その後の混乱期は学習院にとって苦難の時代となり、学習院をどのように存続させるか当時の関係者は大いに頭を悩ませたのですが、その際の大きな方向として、学習院には文部省所管の国立学校となる道もあり得たのだそうです。ただそのときの判断として、学習院がより自由な学校であるために国の管理下に直接置かれる国立ではなく私立学校の道を選んだという記録が残っています。つまり学習院にはもともと自由を大切にする気質があり、それを守り発展させるため、安定した国立ではなく敢えて私学となった、そういう歴史があるのです。

 現在、学習院の理念は「ひろい視野 たくましい創造力 ゆたかな感受性」という3つの言葉に表現されています。過去の殻に閉じこもることなく、広い世界をよく見て、敏感に感じ取り、創造的な発想を巡らせることを表しています。この3つの言葉を日々の生活に活かすための鍵となるのは、学習院が私学として再出発した時期に学習院長をお務めになった安倍能成先生の残された「正直であれ」という言葉であると私は考えています。安倍先生は哲学者であり、文部大臣として戦後日本の教育再興に尽力され、その後、新しい教育制度の下で院長として学習院の在り方を示されました。この後に今日は一番だけを歌う院歌を作られたのも安倍先生です正直とは、嘘をつかない、ということですが、それだけではありません。自分の都合や主観的な見方を優先させることなく、事実に基づいてありのまま物ごとを捉えようとする態度を指しているのだと思います。

これまで皆さんは、多くの場面でまず自分の考えをしっかり持つことを望まれてきたと思います。とても大事なことです。ただそれで充分ではないのです。その上で、ありのまま物ごとを捉えようとする、真実に対する謙虚な態度を取るために、自分の主観にこだわらないフランクな心をもつことが大切です。フランクとは、率直とか、ざっくばらんな様子です。勉強するときや人と接するとき、自分の感覚にこだわり過ぎたり逆に相手を変に持ち上げたり、あるいはおとしめたりせず、相手と自分を同等にリスペクトするフランクな心を持ち、皆が対等に、認識の違いを越えて相互の理解に基づくひろい視野、たくましい創造力、ゆたかな感受性を育んで欲しいと思います。

 ご家族の皆さま、高等科入学という節目を迎え、感慨ひとしおのことと拝察します。中学校・中等科では「子離れの時期」と言われ、時折大人の顔を見せるものの、まだまだ子どもだと感じるときも多くあったことでしょう。それはまだしばらく続くかもしれません。お子さまがさまざまな表情を見せるこの時期を、是非この学校とともに歩んでください。ご家族にとって最も身近な存在としてこの学校は協力してまいります。

 新入生諸君、皆さんの中学生時代は新型コロナの影響を直接受けた形となりました。ほとんどすべての事がらに制限が伴い、期待していた中学校生活とは異なるものであったと思います。これから始まる高等科での生活は徐々に本来のものに戻り、勉強とともに部活動・委員会活動、学校行事が盛りだくさんに用意されて皆さんを待っています。ここで過ごす毎日を大いに楽しんでください。そして多くのことを学んでください。その際に、コロナの経験と学習院の歴史を踏まえて皆さんにお願いがあります。これまでの不自由な3年間をすべて過去のものとして忘れ去るのは、もったいないし愚かなことだと思います。3年間の出来事から皆さんはそれぞれに何かを学んだことでしょう。例えば、感染症への警戒心が人によってさまざまであることに皆さんは気づいたと思います。また、ブルーインパルスによる医療関係者への感謝の飛行があった一方で、クラスターの発生した施設への心無い誹謗中傷もありました。ブルーインパルスが医療関係者への感謝の飛行を行う一方で、クラスターの発生した施設への心無い誹謗中傷があったり、社会的に弱い立場にある人たちに負担が集中してしまったなど、この社会の抱える問題点があらわになったことを覚えていますね高等科生活を楽しむ一方で、社会全体が等しく幸せを享受するには、自分以外の人たちの立場や感覚を尊重する必要があることを覚えておいてください。個人の受け留めは自分と他人では異なるかもしれないという謙虚さを持ち続ける、このことをこれからの高等科でのさまざまな学びの基本的な前提と捉えてください。そのために、相手と自分を同等にリスペクトしてください。社会に開かれた学習院の自由な高等科で学ぶにあたり、皆さんのコロナ禍での経験をそんな風に活かして欲しいと考えています。フランクな心をもって共に多くを学び合って行こうではありませんか。

 以上をもちまして、新入生の皆さんを迎えるにあたっての私からの言葉といたします。

 令和547

学習院高等科長 髙城彰吾

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