令和5年度 卒業式

令和6年3月23日、令和5年度卒業式が行われました。

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令和5年度 卒業式 科長告辞

三年生の皆さん、高等科卒業おめでとうございます。

本日は、昨年度まで行われていた新型コロナ対策を撤廃し、平常どおりの卒業式を行うことといたしました。ただインフルエンザの影響もある中ですので、コロナ禍で学んだように状況の受け留め方には個人差があります。必要に応じてマスクを着用したり近い距離での会話を控えめにするなどの対策を意識してください。ご協力をお願いいたします。

本日は来賓として、学校法人学習院耀英一院長、平野浩専務理事、香取純一常務理事、島津忠美常務理事、城谷俊一郎常務理事、学習院桜友会大野了一副会長、学習院父母会神山直己会長、学習院中等科高等科櫻友会斉藤正彦会長にご臨席を賜っています。ご来臨まことにありがとうございます。

今日は、皆さんに三つのことをお話ししようと思います。

今年度は、当初の予想と異なる、思わぬ展開の1年でした。五月に新型コロナが五類に移行され、社会や学校のさまざまな面でコロナ以前の形を取り戻す努力が行われたことは皆さんのよく知るところですが、すぐに以前の形には戻せない要因が思わぬところに潜んでいました。長く続いたソーシャル・ディスタンスとマスクの生活で、思った以上に生徒諸君の免疫力が衰え、高等科では二学期のインフルエンザA型を中心とする第一波と三学期のB型による第二波という、二度の大流行を迎えた一年でした。同時にインフルエンザ以外の感染症も流行し、普通の社会生活を送ることは感染症と戦うことでもある、ということをコロナ以前よりも強く意識させられた一年間となりました。

昨年の卒業式に皆さんは出席しませんでしたが、その場で私は、皆さんの一つ上の人たちに、コロナ禍での経験を覚えておいてください、と言いました。自分と社会との関わりや、日本と世界との違いを認識したりするときに、コロナ禍での経験はきっと貴重な材料となるからという話をしました。では今年のインフルエンザの経験から皆さんは何を学びとることができるのでしょうか。

一つにはマスクのことがあると思います。現状マスクをする人しない人が混在している状況にすっかり慣れて、特段何も感じないようになっている人が多いと思います。ただこの状態に至った過程を覚えていますか。昨年夏の暑さに加え、秋口に新型コロナが下降傾向となり、マスクを外す人が一時的に増えましたが、その後のインフルエンザの流行もあり、人々は自分の判断でマスクをするようになり現在のマスクをする人しない人が共存する状況につながりました。感染症に対する感覚は人それぞれであり、いろいろな人がそれぞれの事情でマスクをしていたりしていなかったりするのです。マスクのみならず物事に対する警戒心は人それぞれであり、気になる程度がさまざまであることも忘れないようにしなければなりません。

またさらに敷衍すると、これからの皆さんの生活に活かせることがあります。

コロナ禍が始まって間もないころ、皆さんの多くは、急激な生活の変化にしっくりこない、これでいいのだろうかという違和感を持ったことと思います。その後、徐々にその生活に慣れ、別の楽しみ方をみつけ、頑張って違和感を忘れて過ごしたのだと思います。五類に移行して、さあ元に戻そう、としたとき、再びの急激な変化に免疫が追い付かず、皆さんの体調を見ながら、コロナ前の状態に戻すペースを調節することになりました。そう考えると今回のインフルエンザ流行は、コロナ前後で変化する生活について私たちに一度立ち止まって考え直すきっかけを与えてくれた、私はそういう風にも感じています。

皆さんはこの先の生活の中で、新しい環境の新しい生活習慣に飛び込んでいくことになります。そこには一時的な違和感をもつこともあるかもしれません。やがて努力してその状況にも慣れ、新しい環境になじんでいくことでしょう。ただその生活のなかで、ある時ふっと自分の身体の中に眠っていた以前の心の状態が頭をもたげ、変わりつつある自分自身に、はっと気づくことがあると思います。そのときは焦らずにその気持ちを大切にしてください。新しい環境で新たに得たものと忘れかけてしまったもの。その変化が自分にとってどういうものなのかを改めて客観的に捉える段階なのです。その段階を経て、変わっていくこと、前に進むことを自分の心の内面にしっかり位置づけ、自分のペースで新しい環境に挑み続けて欲しいと願っています。

 さて二年前に科長となって以降、折に触れ皆さんにいくつかの指摘をして来ました。これまでその時その時いろいろなことを話したり文章にしてきましたが、いずれも皆さんがこの先の人生において覚えておいて欲しいと思った事がらで、今日、皆さんの卒業にあたり、若干整理しておきたいと思います。

実際、皆さんに科長として伝えられることはそう多くはなく、毎度結局は同じようなことを言ってきました。これまで話してきたいくつかのキーワードを覚えているでしょうか。学習院でつねに念頭においている三つの言葉、ひろい視野・たくましい創造力・ゆたかな感受性。それから、安倍先生のおっしゃった正直であれ、という言葉。これらはこの学校で何かを語るときに、ほぼ必ず大切さを強調してきた言葉です。ひろい視野とゆたかな感受性をもって新たな考え方・知識を受け入れるためには、自分の思い込みや先入観を持たず物事を公平に受け容れるフランクな精神と、相手と自分を同等にリスペクトする謙虚さが必要です。そしてたくましい創造力を働かせるために、自分の頭でものを考える生活習慣がなければなりません。それらすべて、正直であることを大きなベースとしています。自分の人生は自分のもので、環境も長所短所も人それぞれ異なるのですから、その人生における大事な場面での選択は自分で行わなければなりませんし、また民主的な社会を構成する一員として人の指示ではなく自分の頭でものを考えることの重要性は、この学校で学んだ皆さんはもうよく分かっていることと思います。その上で、私が述べてきたことを一言でまとめれば、自分の考えに一定の自信を持つとともに、その考えが未完成であることを同時に認識する必要がある、ということを強調しておきたいと思います。

未完成であることを認めつつそこに自信を持つ、というのは一見矛盾するように感じられますが、実は多くの大人はそのバランス感覚のなかで生きています。このバランスのとり方がどのような大人として生きるかということと密接に関係しています。

自分の考えは実行してみてはじめて正しいかどうかが確認できます。だから自分の頭で考えるとともに、実行するための自信を持たなければなりません。しっかり考えた上で自信を持って実行してください。ただ、実行してうまく行くこともあれば修正を余儀なくされることもある。もしうまく行かなかった場合、なぜうまく行かなかったのかを考えることになりますが、その際に自分の考えを客観的に捉えて修正する、つまりこれまでの考えが未完成なものであったと認めることになります。自分はこう考えるのだ、ということに固執することをやめなければなりません。未完成を認め、より完成に近づけるために、フランクな心でなるべくたくさんの人の意見を参考にすることです。人の意見の中には、考えた内容そのものが間違っていることを指摘するものもあるかもしれません。考えた本人としては聞きたくないことです。でもその意見を排除してはなりません。そのような批判は互いの理解を深める契機となり、むしろ歓迎し受け容れるのが相手と自分を同等にリスペクトするフランクな心なのです。

世の中には、相容れない考え方から世界の国際関係でも、また身近なところでも紛争が絶えない状況があります。失敗したこと自体を認めなかったり、うまく行かなかったのを他の人のせいにする人もいるようです。でもそれでは一時的に強気そうに見えてもやがて人は離れて行き、信頼を得ることはできません。

人の意見を聞く、ということはその前提として自分の考えだけでは足りていないことを認めることです。自分の考えは人からの意見を参考につねに修正される未完成のものなのです。そしてもしかするとそれは完成することができないものかもしれません。人と対話し、自分自身と対話して改善を目指していく。自分の考えに一定の自信を持つとともに、その考えが未完成であることを同時に認識する必要がある、というのはそういうことなのです。

私の場合、いまのところ未完成です。いまこうして皆さんに話していることもかなり自信をもってはいますが本当に正しいかどうかは分かりません。皆さんがこれからの人生で確認してみてください。皆さんからの指摘を伺って修正していくつもりです。

 さて、皆さんのこれからのことを考えましょう。これから皆さんの進む道はさまざまな方向に向かっていきます。このメンバーでこうして一堂に会うのは今日までとなります。今日を出発点として、いま傍らにいるこの三年間の高等科時代を共有する仲間をこれからも大切にしてください。いずれの道に進むにせよ、人生の針路を決めるには、道を選ぶだけでなくどこかの段階で決心することが大切です。決心とは覚悟を決めることです。選んだものを自分にとって最善のものとするためには、この道で勝負するのだ、という覚悟をしっかり固めねばなりません。決心とはそういうものだと思います。社会で活躍する先輩方からお話を伺う機会もありました。先輩方皆さんはそれぞれ自分の頭で考えたうえで覚悟を持って行動していましたね。とはいえ、明確な覚悟がなければ前進できないのかというと、そんなことはないのです。はじめはおぼろげな、ぼやっとした目標でかまいませんし、進みながら修正したり、時にはふり出しに戻ってみたりして良いのです。楽しそうだ、とか何となく興味がある、というモチベーションさえあれば、とりあえず進んでみることをお勧めします。これから先は、皆さんそれぞれの異なる人生が待っています。普通の人生というものありません。それぞれが特別な、一つだけの人生が始まるのです。勇気と希望を持って、力強く歩んでください。

もう一つ忘れてはならないことがあります。それは、ご家族への感謝です。皆さんが日々何かに力を注いだ以上に、ご家族は皆さんの毎日のために力を注ぎました。皆さんの生活全般、食事、洗濯はもとより、感染症や今年度元に戻していく過程などでも簡単ではなかったはずです。ご家族は誰よりも強く皆さんの成長を願い、祈り、案じていました。そのことへの感謝を、この機会に改めて感じてください。できればその感謝を言葉にすると良いと思います。今日の日を迎えたその感慨は、皆さんだけのものではないことを決して忘れないでください。

ご家族の皆様、ご子息の高等科ご卒業、まことにおめでとうございます。教職員一同、ご子息の成長を心よりお慶び申し上げますとともに、皆様のご協力に深く感謝申し上げます。

卒業生諸君、改めておめでとうございます。これからも頑張ってください。

以上をもちまして、私からのはなむけの言葉といたします。

令和六年三月二十三日

学習院高等科長 髙城彰吾

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