令和6年度 卒業式
令和7年3月23日、卒業式が行われました。
令和6年度 卒業式 科長告辞
三年生の皆さん、高等科卒業おめでとうございます。送別にあたり、私から少しお話しいたします。
本日は、今年度の学校運営同様に特段一斉の感染症対策は取っておりませんが、必要に応じてマスクを着用したり近い距離での会話を控えめにするなどを意識してください。ご協力をお願いいたします。
来賓として、学校法人学習院耀英一院長、平野浩専務理事、島津忠美常務理事、城谷俊一郎常務理事、佐藤吉孝常務理事、香取純一前常務理事、学習院桜友会大野了一副会長、学習院父母会神山直己会長、学習院中等科高等科櫻友会斉藤正彦会長にご臨席を賜っています。ご来臨まことにありがとうございます。
皆さんは私が科長となって最初に高等科に迎えた新入生でした。それ以降、折に触れ皆さんにいくつかの指摘をして来ました。今日、皆さんの卒業にあたり、これまで話したことを若干整理したうえで、皆さんのこれからのことを話そうと思います。
少し長くなります。
三年前の入学式で、私は学習院の理念である三つの言葉「ひろい視野」「たくましい創造力」「ゆたかな感受性」という言葉を毎日の学校生活の中で実践して欲しい、ということと共に、つねにフランクな心、すなわちそれは相手と自分を同等にリスペクトする心(大切にする心)をもって欲しいということ、それから、安倍能成先生のおっしゃった正直であれ、という言葉、自分の思い込みや先入観を持たず物事を公平に受け容れ、真実への謙虚な態度をもって正直に、目の前の相手や社会に対して臨んで欲しい、そういった話をしました。ニュースで日々伝えられる、世界のあちこちで起こる戦乱や大きな災害の絶えない難しい社会について学ぶには、このような精神が求められるということなのです。
それらを踏まえて、皆さんにとって高等科の三年間はどのようなものだったでしょうか。
私から見る限り、皆さんはかなり自由な生活を謳歌したように思います。これまでの学校生活の中ではおそらく最もあれこれ言われることの少ない状況の中で、自らやるべきことを見つけて取り組んできたのではないでしょうか。とくに卒業後の進路を選ぶに当たっては、大切なものは何かを見極めたり、希望と現実との間で悩んだりしながら、自分の現在と将来ために自分の力を総動員して、やるべきことを見つけて取り組んできたのだと思います。私から求めた、フランクな精神をもって公平に受け入れた多くの考え方、謙虚さ、正直さなどのことを、皆さんの人生に活かすために必要なものは何でしょうか。それは、自分の中に受け容れ蓄えた知識や考え方を自分の頭で嚙み砕き、自分の中から発せられる声を基に行動したり物事を選択したりすること、すなわち自由であることなのです。私がこれまで話してきた事がらは、皆さんの自由な精神をもってこそ、日々の生活に活かされるのです。
高等科を卒業していよいよ成人となる皆さんは、これからは少年としての制限が大きく減少し、また未成年として守られることも無くなります。制限や保障が無くなる分、これまで以上に自分自身が自ら望んで考えて行動してください。それは人生に主体的に挑むことであり、すなわち自由を謳歌するということです。自由な精神をもって、これまで学んだ多くのことを人生に活かしてください。皆さんが高等科で自由な生活を経験してきたのは、そのための準備でもあったのです。
ここから、皆さんのこれからについてお話ししましょう。
これからの人生で自由を謳歌するために、大切にしてほしいものを三つお話しします。多くの皆さんはすでに分かっているだろうと思いますが、これまでのまとめとしてお話ししましょう。
まず一つ目は、やるべきことに全力で取り組むこと、です。これからの人生のその時その時に、今日、今週、今月、今年にやるべきことを意識して、全力で取り組んでほしいと思います。今の皆さんとすれば、学生の間は眼の前にいろいろな課題が連続し、やるべきことには事欠きません。ですが、それは自分が望んで選んだものとは異なることも多くあります。多少の違和感があってもまずはやってみてください。もし「やりたいこと」と「やらねばならないこと」がそれぞれあったら、その両方に100%ずつの力を注いでください。やりたいことがよく分からないならとりあえず目の前のことをやってみれば、よく分からないなりに、もしかすると何か見つかるものがあるかもしれません。ひとまずは余計なことを考えず、全力で目の前のことに取り組んでください。それらが一段落する頃、例えば選んだ職業がとりあえず順調に動き出した頃、皆さんの目の前にある「やるべきこと」は皆さんが長い目で見て望んでいるものにつながるかどうか、考えながら日々を過ごしてください。目の前にあることがそのまま希望に直結することは、むしろ少ないと思います。望むものにつながるか、自分の求めるものなのか、それは全力で取り組んでみなければ分からないものです。取り組むことで、ああ今日はこれをやったぞ、と思うことができます。少しの成功を繰り返すことで自分自身に期待する心を持ち続けることができます。この自分に期待する心の大切さは、これまで何回かお話ししてきました。自由な精神を支えるものとなる最も大切なものです。いずれそれは自分自身へのリスペクトにつながるでしょう。
自由を謳歌するための二つ目は、友人です。親友に限らず、すべての友人を大切にしてください。これからの人生は何回かの分岐点を経て、それぞれ選んだ道に分かれていきます。共通の経験というものが少なくなり、それぞれの特別な人生が待っています。その中で、同じ時代を生きる仲間から得られるものは、かけがえのないものとなることでしょう。付き合いの続く人もいれば、次第に疎遠になる人もいます。付き合いが続いている人とは常に影響し合う関係であり続けてください。日々の支えとなり、お互いの糧になる関係を大切にしてください。疎遠になった人は、時間が経って久しぶりにその消息が分かったり会えたりすると、自分とはまったく異なる世界で生きる姿に驚かされると思います。疎遠になっていた期間が長いほど、過去を知っている友人の現在の知らない姿は、その時の自分とそれまでの経験を振り返り、それからを考えるとても大きな刺激になります。そのいずれにしても、友人は自分の姿を顧みる鏡です。なるべく多くの友人からさまざまな刺激を得ることで、たった一度の人生で何倍もの経験を得ることができ、自分自身に期待する心をより強くすることができます。それは自分の人生をより自由に生きるための大切な道しるべとなるでしょう。
三つ目に大切にしてほしいもの、それは拠り所となる言葉です。昨日皆さんに配られた高等科だよりに私は「座右の銘」という文章を書きました。今の皆さんには座右の銘はあってもなくてもかまいません。ただ、座右の銘とまでは行かなくても、日々の行動を選ぶ中で気にしている考え方があると思います。それが、ここで言う、拠り所となる言葉です。高等科だよりの中で私は、若いうちはあまり問題にはならないけれど、やがて成長し大人として周囲から期待されるようになると、周囲と自分との関係に責任を負うようになる。周囲との関係に責任を負うようになれば、自分としての心がけが求められる。いろいろな経験の中で、自分の心がけとして座右の銘を見つけたり作り出したりして行って欲しい、そのように述べました。そんな自分の拠り所となる言葉を持って、周囲と自分との関わりの中で自分の在りたい姿を、その時その時、意識してください。当然ながらその言葉は、その時その時で変わっていくでしょう。どのように変わっていくかは、自分の歩んだ道の記録ともなります。それらの言葉は、在りたい目標として、自分を確認する鏡として、どう生きたかの記録として、皆さんのこれからの自由な人生を支えていくことでしょう。
自分の行ないや周囲との関係に課題を感じ、「そのようになりたい」と願う姿を思うとき、その奥には自分自身に期待する心が必ずあります。自分自身に期待する心は自由を謳歌するための原動力となるのです。
このメンバーでこうして一堂に会うのは今日までとなります。今日を出発点として、いま傍らにいる三年間の高等科時代を共有する仲間をこれからも大切にしてください。いずれの道に進むにせよ、人生の針路を決めるために、皆さんは選ぶだけでなく決心をしたことだと思います。決心には、選んだものを自分にとって最善のものとするのだという覚悟が求められます。とはいえ、明確な覚悟がなければ前進できないのかというと、そんなことはないのです。何となく興味さえあれば、とりあえず進んでみることをお勧めします。やってみるうちに引き込まれ、興味から決心が生まれ出るかもしれません。これから先は、普通の人生というものありません。それぞれが特別な、一つだけの人生が始まるのです。勇気と希望を持って、力強く歩んでください。
もう一つ忘れてはならないことがあります。それは、ご家族への感謝です。皆さんが日々何かに力を注いだ以上に、ご家族は皆さんの毎日のために力を注ぎました。皆さんの生活全般、食事、洗濯はもとより、勇気をもって一歩を踏み出せるかどうか、ご心配も多かったことでしょう。ご家族は誰よりも強く皆さんの成長を願い、祈り、案じていました。そのことへの感謝を、この機会に改めて感じてください。できればその感謝を言葉にすると良いでしょう。今日の日を迎えたその感慨は、皆さんだけのものではないことを決して忘れないでください。
ご家族の皆様、ご子息の高等科ご卒業、まことにおめでとうございます。教職員一同、ご子息の成長を心よりお慶び申し上げますとともに、皆様のご協力に深く感謝申し上げます。
卒業生諸君、こうしてお話しができたのも、毎度私を励まし、話を聞いてくれる皆さんがいてくれたおかげです。三年間のお礼を言います。ありがとうございました。
改めて卒業おめでとうございます。これからも頑張ってください。
以上をもちまして、私からのはなむけの言葉といたします。
令和七年三月二十三日
学習院高等科長 髙城彰吾