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高等科NEWS

2014年度 卒業式

平成26年度高等科卒業式が行われました.
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科長告辞
学習院高等科
科長 林 知宏

 高等科3年生のみなさん,卒業おめでとうございます.みなさんの喜ばしい卒業に際し,私からの伝えたいことを話したいと思います. 
 今日,グローバリゼイションの名の下で,人やお金や情報が容易に国境を越えていく時代になりました.そのことはみなさん誰もが共通に認識しているはずです.そしてその時代に即した人材を求める声は日々大きくなるばかりです.ただ,肝心の求められる事柄は実に多岐にわたります.語学力,積極性,危機管理,多様性に対する理解,自分自身のアイデンティの確立,リーダーシップ,どれもが不可欠に違いありません.一人の人間が一生かけてもそのすべてを十全に獲得できるのか疑問に思うほどです.一方で,たとえ備えるべきものが備わったとしても,なお予想のつかないことに遭遇するのではないかと懸念を持ってしまうのではないでしょうか.実際,国の内外で起きている出来事は多くの不安を引き起こします.特にこの間報道されてきた中東地域,ウクライナの紛争,あるいはパリの市街で派生した事態を知るにつけて,多くのことを考えさせられます.
 人は何らかの共同体に属して生きています.その共同体は,行動・感情・認識・思考にある一定のパターンを持った人々からなると言っていいでしょう.そうした長い歴史の中で培われてきた要素は,個人や集団を強く縛るものかもしれません.そしてともすれば排他的になる側面を持つのでしょう.その一方で,国,民族,宗教が違えども同じ人間として共通する普遍的な面もあるはずです.それら両面によってこの地球上の数十億の人間たちが構成されているということです.異文化間の対話は可能か?いま誰しもが直面させられる問題です.最終的には人間同士の対話は可能か?という問いに帰着されるのでしょう.人の抱く複雑でかつ根深い感情を思うと,その問いに対しては,やはり単純にイエスともノーとも言えないとしか答えようがありません.すなわち,互いに分かり合える部分と分かり合えない部分とがあるのではないかということです.そのことをふまえつつ,この世界の現状に対して,みながどのように対処して生きていくかが問われていると感じます.国という人間が作り出した制度の中で,内向きにひたすら固まっていくことが事態の解決につながるようには見えません.なぜなら,現在の政治,経済,思想において生じる対立の構図は国境線によって区切られているとは限らないからです.とはいえ,ばらばらな個人の奮闘で解決がつくほど単純でも容易でもありません.個としての強靭さを備えつつ,同時に属する集団の一員としてどのように有機的なつながりを保って力を発揮できるのかが重要なテーマであると思います.
 私は,真に社会が望む貢献を高等科の卒業生が果たして欲しいと思っています.長年蓄積した閉塞感を打破することができれば,爽快感が伴い,一時的な脚光を浴びることもあるでしょう.しかし本質はさらに向こう側にあると感じます.その風穴の開いた先はおそらく道が平坦でないでしょう.ときには,道そのものがついておらず,あらたに道を作らざるを得ない場合もあるかもしれません.いずれにしても安易さとは一線を画したプロセスが待っているはずです.あの3月11日の出来事から4年を経て,街の復興に,あるいは原子力発電所の事故の処理にどれほどの知恵と労力が注がれ,それでもなお解決へたどり着かないかを見ただけでもすぐに理解できることです.試されるのは,そうした長期間にわたる困難を引き受けるための精神の奥行がどれだけあるか,予期せぬことも含めて様々な問題に対処するための引き出しを心の中にどれだけ備えているかということです.一歩前に踏み出す勇気を持つためにも,そうした精神の奥行や引き出しを備えて欲しいと心から願っています.
 父母保証人の皆様,本日の卒業式には学校法人学習院を代表し,内藤院長をはじめ,耀常務理事,平野常務理事,岩浅常務理事が出席しております.また来賓として内藤櫻友会会長,小堀父母会会長,一條中高櫻友会会長にもこの壇上に列席いただいています.私たち学習院高等科の教職員一同,心からご子息のご卒業をお祝い申し上げます.高等科の3年間において,彼らは確かな成長の跡を残したはずです.そのことは父母保証人の皆様の目から見てもお感じになるのではないでしょうか,ただ同時に,これからさらに学ぶべきことが多くあるとお考えになっているでしょう.私たちは彼らが担う未来に大きな期待を抱きつつ,いつでも可能な助言をしていく所存です.ともに彼らの成長を見守る作業は,これからも続いていくものと考えております.
 卒業生のみなさん,みなさんにとって中学,高校時代はいろいろな思い出が多く詰まった時期だったことでしょう.ただ,この高等科卒業をもって,一つの区切りをつけるときが来たのではないでしょうか.今日でみなさんの子供時代は終わりです.大人になるために扉を開けて,前へ進んでほしいと思います.互いの進んだ方向や歩みのペースは異なっているでしょう.ある局面だけを見るならば,ひとと比較して自分の方が上になったとか,より前に進んだとか,自分だけが停滞してしまっているとか様々な感情をその場その場で抱くはずです.それでも,いつの日かこの仲間たちと作り上げてきたことを確かめ,共感し合える時が来るはずです.みなさんが20年後,30年後,お互いに幸福な人生を過ごしてきたと認め合えるような関係であればと願っています.その意味でも,偶然同級生となったその縁を,ここで築いた人と人のつながりを大切にして欲しいと思います.みなさんが戻ってくる場所は,やはりこの高等科です.長い道のりを歩んでいるとき,ふと後ろを振り返れば出発点にこの高等科が位置していると感じる機会があるでしょう.人生を充実させるための基盤がこの学校を通じて据えられたのであるならば,私たち学習院高等科の教職員にとって何よりも嬉しいことです.
 卒業生のみなさんの活躍を心から願いつつ,私の告辞とします.