学習院大学理学部物理学科3年 加藤 孝信(09年度高等科卒)
最近、高等科時代に温めてきたものが、次々と花を咲かせている。その最たるものが、今春の"全日本自転車競技選手権大会ロードレース"出場です。
「何をしても自由」
そんな高等科は、僕にとって、とても居心地のよい学校でした。
めちゃくちゃ頭のいい人もいるし、音大並みのアマチュアピアニストもいる。なかには、プロ並みに写真が上手い人もいた(彼は撮影のため全国に行っていた)。そして、個性的な生徒に負けじと、個性的な先生もいらっしゃる。
そんな中で、僕は高等科3年間全てを、趣味を追求してゆく時間として過ごしました。
中等科の頃、親の方針もあり、僕はたくさんの習い事をしていました。その頃、Jr.オーケストラの先生が「今は色々な事をやってみて、将来そこから3つくらい選べばいいのよ」と言って下さいました。
そして、高等科生になった僕は「自転車・カメラ・バイオリン」を選んだのでした。それこそ、勉強なんてそっちのけで「本気で」打ち込んだものでした。晴れた日の夜は、20cmもある望遠鏡を据え付け、家の屋上に毛布を引き、カメラと双眼鏡を手に夜半まで寝転がって星雲観察をして、母を本当に困らせたものです。
趣味の中で、特にバイオリンなどは、子供の頃は辞めたくてやめたくてしょうがない時もありました。しかし、親に叱られ続けていくうちに、上手くなっていき、そのうち自ら進んで練習するようになりました。そうすればしめたものです。やりたいから上手くなる、上手くなるからやりたくなる。そして上手くなると、また違う世界が見えてきます。そうやって、「継続する事」の大切さを学びました。
高等科3年の鳳櫻祭では、そうやって学んだ(世間的にはムダといわれる)知識を精いっぱい活かして、パンフレットの作成および、後夜祭の手伝いをさせてもらいました。賛否両論ありましたが、ポスターとパンフレットの写真は渋谷のスクランブル交差点で撮影。渋谷にたまたま居合わせた高等科生の友人に撮影を手伝ってもらったのは懐かしい思い出です。そしてモノクロフィルムも、自分で好みの現像を行いました。そして、パンフレットの印刷は、高等科OBの方の印刷会社にお願いしました。
ひと夏を丸々費やして、かなり好きなようにさせてもらったポスター・パンフレット制作。いつも、物事を中途半端で終わらせていた僕にとって、最後まで一貫して責任を持って製作し、それが皆に批評されるということは、新鮮な喜びでした。
話は変わりますが、最近大学の理学部図書館で懐かしい本―天体の位置計算―を見つけてしまいました。
高等科1年の頃、プラネタリウムを作るため、その本を片手に天体の座標変換のプログラムを書いたものの、動かず、鳳櫻祭で動かないプログラムを「ここまでやりました!」と展示したのは、今となっては良い思い出です。
そう、僕は高等科時代、地学部の活動の一環として、まだ誰も作ったことのない変則的な構造(12筒式と命名)のプラネタリウムを作ることに没頭していたのでした。当時は、幸いな事に周りからの理解が得られ、豊富な予算を割り振っていただくことが出来て、随分とやりたいように設計させてもらいました。
本当に、誰も作ったことが無いものなので、自分で一から図面を引きました。レンズ1つにしても、レンズ会社を回り、時には必要な性能を伝え、見積もりを出してもらいました。そして、秋葉原を回り、電子部品を買い集めました。LEDなどは、性能を満たすために、アメリカから輸入しました。そして、それを皆で組み立てたのです。そうして3年間掛けて皆で作り上げたプラネタリウムは、壊れやすく、レンズの性能が低かった事を除けば、高校生にしてはなかなかの物が出来たと思います。(今では笑い話ですが、製作が当日早朝までずれ込んで、毎年のように鳳櫻祭当日は大寝坊をしていました...)
しかし、今の僕にとっては、その評価はどうでも良いことです。それよりも、それを作り上げる過程で、重要なことをいくつも学びました。目標を達成するにはどうすればよいか、リーダーはどうあるべきか、周りの理解を選るにはどうすればよいか、チームの士気を上げるにはどうすればよいか、などなど・・・それらに答えなど在る訳もないが。そして、解らなければ考える。誰も作った事が無いのだから、教科書など無い。人が出来ないのなら、自分が考えるしかない...
そんな訳で、僕は高等科の頃、殆ど勉強をしませんでした。しかし、そうやって生まれた自由時間に様々なことを経験し、学びました。得た友人、楽しかった時間、そしてそれから学んだ物は、僕の一生の宝物です。そして、それは今も僕の中で息づいていて、役に立っています。
大学生になってから本格的に打ち込んだ自転車競技。自転車とプラネタリウム・バイオリンは全く違うものです。途中、怪我で1年以上リハビリもしましたし、実験が忙しく全く練習できない期間もありました。しかし、そうして学んだことがあったからこそ、自転車では強い意志を持って高い目標を達成することが出来ました。
そんな僕ですが、小さい頃からの夢は、エンジニアか研究者になることです。現在は、次に自分がやるべきことを考え、勉強と練習・趣味とを両立すべく、限られた時間を無駄にしないよう、日々努力をしている毎日です。