令和6年度 入学式

令和6年4月7日、入学式が行われました。

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令和6年度 入学式科長告辞

新入生の皆さん、父母保証人ご家族の皆さま、入学おめでとうございます。

今年は例年よりも三月が寒く、ちょうど今ソメイヨシノの満開を迎えています。この目白の森ではこの先も桜の季節がわりあい長く続き、いろいろな桜が次々と新入生を迎えてくれることでしょう。二月の試験を突破した諸君21名、中等科からの進学者182名、合わせて203名の新入生が今日ここに、新しい高等科のメンバーとして加わりました。教職員一同ご入学を心よりお慶び申し上げます。

新入生諸君は今日を新たな気持ちで迎えたことでしょう。その気持ちを覚えておきましょう。高等科生活が夢にあふれたものとなるように、学校としても努力して行きたいと今改めて感じています。

本日は来賓として、学校法人学習院 耀英一院長、平野浩専務理事、香取純一常務理事、島津忠美常務理事、城谷俊一郎常務理事、学習院桜友会 諸戸清郎副会長、学習院父母会 神山直己会長、学習院中等科高等科櫻友会 草野忠廣副会長にご臨席を賜っています。ご来臨まことにありがとうございます。

昨年度、社会と学校は新型コロナの影響から徐々に脱却し、またインフルエンザの猛威をくぐり抜けて、今年ようやく平穏な春を迎えることができました。本日の入学式では、ここ数年行ってきた感染症対策を撤廃し一切の制限をなくしました。ただ、感染症に対する警戒心は個人ごとに異なりますので、お互いへの配慮として必要に応じてマスクをつけたり近距離での会話は短く済ませるなどの対応を心がけてください。ご理解をよろしくお願いいたします。

ご存知のように学習院は歴史ある学校で、弘化四年、京都に開かれました。明治十年(1877年)、東京・田錦町に改めて開設され、以来今日まで社会のリーダーを輩出して来ました。2027年に創立150周年を迎えます。現在は耀院長の下、三年後の150周年を目途に、その先の未来に向けての準備としてさまざまな計画を策定し実現に向けて検討しているところです。

その学習院が掲げる理念は「ひろい視野 たくましい創造力 ゆたかな感受性」という三つの言葉に表現されています。広い世界をよく見て、敏感に感じ取り、創造的な発想を巡らせることを表しています。この三つの言葉を日々の生活に活かすための鍵となるのは、学習院が私学として再出発した時期に学習院長をお務めになった安倍能成先生の残された「正直であれ」という言葉であると私は考えています。安倍先生は哲学者であり、文部大臣として戦後日本の教育再興に尽力され、その後、新しい教育制度の下で院長として学習院の在り方を示されました。この後に今日は一番だけを歌う院歌を作られたのも安倍先生です。正直とは、嘘をつかない、ということですが、それだけの意味ではありません。自分の都合や主観的な見方を優先させることなく、事実をありのまま捉えて受け容れようとする態度を指しているのだと思います。これまで皆さんは、多くの場面で自分の考えをしっかり持つことを望まれてきたと思います。自分の考えを持つことはとても大事です。ただその前提となるものがあります。それが正直であること、すなわち真実に対する謙虚な態度、自分の主観にこだわらないフランクな心です。フランクとは、率直とか、ざっくばらんな様子を指しますが、つき詰めれば自分自身を含めたすべてのことを客観的に見ることのできる心です。これは私自身も胸を張って「身に付けています」ということは難しいのですが、毎日努力しています。一緒に努力しましょう。フランクな心で人と接するのは、相手と自分を同等にリスペクトすることにつながります。勉強するときや人と接するとき、自分の感覚にこだわり過ぎず、相手と自分を同等にリスペクトするフランクな心を持ってください。そうすることでひろい視野を得て、ゆたかな感受性を働かせることができ、たくましい創造力をもって自分自身の新しい主張を創り出して欲しいと思います。

学習院の中で、高等科は人格の幹を完成させる大切な時期を担っています。皆さんは三年前に中学生・中等科生になったとき、大人の仲間入りと言われたことと思います。でもその後、大人というものは、その資格を人から与えられるものではなく、自らの努力によって自分自身の中に築き上げていくものだ、ということに気づいたと思います。大人の自覚を持てと言われても、どうしたらよいか今は戸惑うかもしれません。自分は周囲の人たちや社会から何を求められているのか、そして自分には何が認められるのか、ということについて、自分の認識と周囲や社会からの期待との間には食い違う部分があることと思います。今はまず、その食い違いを感じることから始めてもらえれば良いと思います。食い違いを感じながら日々を過ごすのは苦しいこともあるとは思いますが、そのことが社会性のまず第一歩となります。その食い違いを認識する中から、自分自身の行うべきこと、大事にすべきことが見えてくるきっかけが得られるのではないかと思います。これは自由と責任ということにつながる大切なことです。これについては、高等科の三年間でも大きなテーマになると言って良いでしょう。私からも折に触れ改めて話をしていきたいと考えています。

その自由についてですが、皆さんは「学習院て意外と自由な学校だ」といわれるのを聞いたことがあるでしょうか。歴史と伝統を大切にしながら同時に自由な学校でもあるということは、一般にはやや意外であるように受け留められているようです。歴史と伝統といって、ただ形としてだけ過去のものを維持するのでは物事は実質的な意味や効果を失って、社会的な責務を果たすことはできません。学校はつねに、その時の生徒とともに未来を生きる術を考える場でなければなりません。そのために、広い世界をよく見て、敏感に感じ取り、創造的な発想を巡らせる必要があるのです。学習院では昔からそのことを歴史伝統とともに大切にして、社会で活躍する卒業生を輩出してきました。決して意外ではなく、社会に開かれた学校で有り続けるための必然として、自由を尊重してきている、ということなのです。

先の大戦、第二次世界大戦・太平洋戦争が終わった七十九年前のことです。それまで学習院は宮内省管轄の官立学校でした。戦後の民主化の流れの中で、学習院をどのように存続させるか当時の山梨勝之進院長はじめ関係者は大いに頭を悩ませたのですが、その際の大きな方向として、学習院には文部省所管の国立学校となる道もあり得たのだそうです。ただそのときの議論を踏まえた判断として、学習院がより自由な学校であるために国の管理下に直接置かれる国立ではなく私立学校の道を自ら選んだという記録が残っています。つまり学習院にはもともと自由を大切にする気質があり、それを守り発展させるため、経営の安定した国立ではなく敢えて私学となった、そういう歴史があることを知っておいてください。

ご家族の皆さま、高等科入学という節目を迎え、感慨ひとしおのことと拝察します。中学校・中等科では「子離れの時期」と言われ、時折大人の顔を見せるものの、まだまだ子どもだと感じるときも多くあったことでしょう。それはまだ少しの間続くかもしれません。お子さまがさまざまな表情を見せるこの時期を、是非この学校とともに歩んでください。ご家族にとって最も身近な存在としてこの学校は協力してまいります。

新入生諸君、皆さんは小学校・初等科最後の年からこれまでの間、新型コロナの影響を強く受けました。多くの事がらに制限が伴い、いわゆる本来とは異なることが多くあったと思います。これから始まる高等科での生活は基本的にすべて本来のものであり、勉強とともに部活動・委員会活動、学校行事が盛りだくさんに用意されて皆さんを待っています。ここで過ごす毎日を大いに楽しみ、そして多くのことを考え、学んでください。いわゆるコロナ以前の形に戻すことを考える際に高等科の先生方が苦慮している面があります。過去の流れや先輩方の工夫によって代々受け継がれていた形というものがありましたが、三年以上にわたる臨時措置を経て、以前の形が今の生徒諸君にとって必ずしも適切とは限らない状況も起こっています。その要因は、生徒自身が以前の形を経験したことがない、ということです。そういう中でどうするか、戻すというよりも、今のメンバーが新しく創り出していかなければならないのです。皆さんの感覚を立脚点として、皆さんの考え方で協力をお願いする場面もきっとあるでしょう。

その際に、コロナの経験を踏まえて皆さんにお願いがあります。コロナ禍の出来事から学んだこととして、感覚というものが人によってさまざまであることがあると思います。ブルーインパルスが医療関係者への感謝の飛行を行う一方で、クラスターの発生した施設への心無い誹謗中傷があったり、社会的に弱い立場にある人たちに負担が集中してしまったなど、この社会の抱える問題点があらわになったことを覚えていますね。高等科生活を楽しむ一方で、社会全体が等しく幸せを享受するには、自分以外の人たちの立場や感覚を尊重する必要があります。個人の受け留めは自分と他人では異なるかもしれないという謙虚さを持ち続ける、このことをこれからの高等科でのさまざまな学びの基本的な前提と捉えてください。そのために、相手と自分を同等にリスペクトしてください。社会に開かれた学習院の自由な高等科で学ぶにあたり、コロナ禍での経験を活かしつつ、フランクな心をもって共に多くを学び合って行こうではありませんか。

以上をもちまして、新入生の皆さんを迎えるにあたっての私からの言葉といたします。

 令和六年四月七日

学習院高等科長 髙城彰吾

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