令和3年度 卒業式

感染症対策のため昨年に続き簡略化した形ではありましたが、令和3年度の卒業式が行われました。

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高等科卒業式告辞

 

 このところ寒さがぶり返してしまいましたが、木々の芽もふくらみ、桜の花もほころび始め、春はすぐそこまで来ています。今日この日、本年度の卒業式を行えることを大変うれしく思います。

 卒業生のみなさん、そして父母保証人の皆様、本日はご卒業おめでとうございます。

本来であれば、ここに在校生の諸君と共に式を挙行するはずでしたが、ご承知の通り、新型コロナウイルスの感染はいまだに収束せず、このような形で行わざるを得ませんでした。

思い返せば、一昨年から始まったこの騒動は、学校生活に大きな影響を及ぼし、既に2年が経ちました。授業はもちろん、クラブ活動や行事の多くが、中止や延期に追い込まれ、高等科生活の大半がこのような形になってしまったことが残念でなりません。保護者の方々にもさまざまなご不便をおかけしたことと思います。ただし、この100年に一度ともいわれる厳しい状況の中で、生徒たちの安全を図るためのやむを得ない措置であったことをご理解いただきたいと思います。

 さて卒業生諸君に向けて、ここで改めて学習院の教育理念である「広い視野、たくましい創造力、ゆたかな感受性」についてお話ししたいと思います。「何をいまさら」と思われるかもしれません。しかし、最近の社会や世界の動向を考えると、これとは「逆の方向」に進んでゆく危険を感じざるを得ないのです。

逆の方向とは何か。すなわち「人々の視野は狭められ、感受性は均質化され、その場限りを糊塗するような創造性しか期待できなくなる。」そんな事態です。悲観的過ぎると思われるかもしれません。しかし、混迷を極める時代を生きてゆく君たちに楽観的な未来を語るのは、あまりにも不誠実な行為だと考えます。そして理念とはそれが唱えられるだけなら単なる「お題目」に過ぎません。理念とはあくまで追い求める行為を怠らないこと、そのことこそが「理念」を「理念」たらしめるのです。さらに、われわれが追い求める理念は、この時代にあって、ますますその真価が問われているのではないでしょうか。 

確かに近来の情報化社会は、昔と比べものにならないほどの大量の情報に簡単に触れることができるようになりました。しかし、それが必ずしも視野を広げることにならない。さらに言うなら、逆に狭めてしまうことにもなりかねないところが問題なのだと思います。みなさんもご存知の通り、アクセスした情報に似通った情報が大量に送りつけられ、本人が知らないうちにどんどん視野が狭められてゆく。このような事態を招いてしまうのは、特に「簡単に」という点だと思います。「視野を広げる」といっても、そのこと自体たやすく実現できることではない、と私は考えます。まずは異質なものに出会うこと、そのことにはかなりな努力が必要です。またその異質なものと出会った場合、従来の考え方との対話、葛藤がなされなければ、単に周囲に流されるだけに終わってしまいます。つまり、「広い視野」を獲得するのはかなり手間がかかることなのです。

 こうした意味での「視野を広げる」ことに必要なのが「ゆたかな感受性」なのではないでしょうか。ものや人に出会い、心を震わせること、すなわち「感受性」、しなやかな感性を備えていなければ、異質なものとの出会い自体が見過ごされてしまう。その際、自分が好きか嫌いか、敵か味方かといった単純な二分法にとらわれているならば、異質なもの、「他者」との出会いは永遠に見過ごされてしまうでしょう。にわかに判断できないような曖昧なことやものについて粘り強く考え続けてゆくことが要請されるのだと思います。

 このように「ゆたかな感受性」によって鍛えられた「広い視野」こそが「たくましい創造力」につながってゆくのです。また、「たくましい創造力」とは、何か目新しい「もの」を生む出すことに限ったことではありません。例えば、人と人との関係性を新たに構築してゆくことも、場合によっては立派な「創造力」となるでしょう。それぞれにとっての「たくましい創造力」とは何か、問い続けて下さい。

以上、われわれの教育理念「広い視野、たくましい創造力、ゆたかな感受性」について述べて来ました。高等科で3年間を過ごした君たちは先ほど述べた「逆の方向」へと向かわせようとする力に抗い続けて下さい。そして現在われわれに突きつけられている諸々の問題から目を逸らさず、一人一人が粘り強く考え抜いて欲しいと思います。

父母保証人の皆様、本日の卒業式には学校法人学習院を代表して、耀院長、香取常務理事にご列席いただいております。またご来賓として東園桜友会会長、大野父母会会長、斉藤中高桜友会会長にご臨席いただいております。私たち学習院高等科の教職員一同、心からご子息のご卒業をお祝い申し上げます。

皆様におかれましては、3年前の入学式のことはまだ記憶に新しいのではないでしょうか。彼らはこの3年間さまざまなことを経験して、今日卒業の日を迎えました。時には、見ていてひやひやされたこともあったかもしれません。この目白のキャンパスで過ごした日々が、より良き成長の手助けとなったとしたならば、これほど喜ばしいことはありません。彼らはこれから自らの足で自分の道を歩いて行くことになります。まだまだ親としての心配は続くでしょう。また、われわれも卒業したから事足れり、とは考えておりません。むしろ、高等科の教育はこれから始まるのだと言っても過言ではないでしょう。10年後、20年後、それが一つの実を結んでくれればと、願っています。3年間、学校運営のさまざまな局面でご協力いただいたことを心より御礼申し上げます。

最後に、卒業生の皆さん、高等科で築き上げた友人との絆を大切にして下さい。それは君たちの生涯を通じての大きな財産(たから)となるはずです。みなさんにとってこの高等科が、いつまでも「特別な場所」であり続けることを切に願っています。

以上をもちまして卒業式の告辞といたします。

                         令和4323日 学習院高等科長

                                        武市憲幸

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